貴女は悪役令嬢ですよね? ─彼女が微笑んだら─
マルタンが男爵令嬢をどうするのか、私にはどうでも良かった。
言葉通り実家への途中で捨てようが、売ろうが。

目の前の男にすがって生きるしかないことに気付いたココは、元王太子の事など忘れて、馬車が走り出せばマルタンにすり寄るのは目に見えていたから、気の弱い男がそれをはね除けられるのか、も。


 ◇◇◇


ユージェニーにはそれは伏せておくと、決めていた。
一生、伝える事はない、と。


だが、彼女は兄によく似たアンドレ・マルタンを王太子のリシャールの側に付けた。
子沢山で、子供全員を王都の高等学院へは送り出せない田舎の貧乏伯爵家の四男に、就学の機会を与える為に、リシャールを言葉巧みに誘導した。

それくらいなら見逃してやろうと思っていたが、次は自らがマルタンの縁組みに動いたのだ。


私は今、それを愛する王妃にいつ伝えるか、楽しみながら模索している。
楽しみながら、苦しんで。
憎んでいるのに、愛している。

彼女本人は気付いていないだろうが、似ている弟を身代わりのように愛する程に、彼女がずっと大切に心に留めている『真実の愛』だ。
それを、いつ取り上げてやろうか。

相変わらず貧乏で子沢山なガブリエル・マルタン・シャンドレの妻の名前は、コレットだ、と。
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