僕の月

第13話

 「じゃあ、二年二組、球技大会優勝を祝して、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
僕はいつもとは違い、真ん中の席で両隣を知らない女子に囲まれている。なぜそうなったかというと、十分前。
「おいおい、宗一郎、大丈夫だったか?」
「ああ。琉希こそ機嫌は直ったのか?」
「うるせえよ。」
そんな会話を二人でしていたとき、
「ねえ、三崎君、よかったら一緒に座らない?」
「あ、琉希もついでで。」
「いや、僕は」
断ろうとした矢先、琉希が、
「いいじゃん、あっち座る?」
明らかに沙夏と奈波とは真逆の席を指さしてそう言ったのだ。それで今に至る。
「あのさ、最近、ちょっと雰囲気変わったなって思って話したかったの。」
「そうか。」
「私、早坂美結。こっちの子が、京本香奈。」
「よ、よろしくね。前から話してみたいなって思ってたんだけど、いつも相沢さん達といるから、声かけづらくて。同じクラスなのに。」
早坂さんは、いかにもスポーツをしてそうな元気な人。京本さんの方は、どちらかというとおとなしめで、気が合いそうだ。
「そうだったのか。すまない。」
僕は、沙夏と一緒にいたかったが、まあクラスメイトと親睦を深めるのも大事かもしれないと思い、そのままそこに座ることにした。
 それにしても、いつもは四人でいたがる琉希が珍しいなと思った。やはり、奈波を意識してのことだろうか。そう思い、奈波達の方を見ると明らかに二人とも落ち込んでいる様子だ。本当に分かりやすいな。前に座っている男子も、大体の事情を把握して、二人をなだめている。移動したかったが、
「あ、そうだ三崎君。読書好きなんでしょ。香奈も読書好きなんだよ。いつも誰の本読むの?」
本の話をされたら僕は、完全に意識がそちらに向いてしまうのだった。
「太宰治とか、江戸川乱歩辺りが多いかな。」
「え、わ、私も。文豪の本が多くて。面白いよね。」
「本当か?人間失格、読んだことあるか?」
「うん。あるよ。私は全体的に、葉藏の言い訳かなって思っちゃった。でも、同じ人間だからちょっと共感できる所もあって面白いよね!」
「僕もそう思った。ははっ。同じだな。」
「ほんとに?う、嬉しいな。良かったら、連絡先交換しない?本の感想とか、おすすめの本とかあれば教えてほしいなって。」
「ああ。」
僕は、京本さんと連絡先を交換した。クラスの女子では三番目だ。
「ええ~、なんか、良い感じじゃ無い?二人とも。」
早坂さんは苦手だなと思った。
 そんなこんなで、焼き肉は無事終わった。帰り道、沙夏をさそい、一緒に帰った。だが、沙夏は道中、元気がなさそうだった。原因はさっき、一緒に座らなかったことだろう。
「すまない。僕も一緒に座りたかった。」
「うん。私も。ちょっと落ち込んじゃった。」
「そうだよな。」
「うん。けど、一緒に帰ってくれたから、いいや。」
「ありがとう。」
本当に、沙夏は良い子だ。もう少し怒られてもおかしくないと思ったのだが。
「そういえば、京本さんと連絡先交換したんだ。僕と同じ本を沢山読んでいるらしい。話があって楽しかった。」
「そっか。宗一郎はいつも文豪の本読んでるよね。香奈ちゃんも好きだったんだ。意外だな。けどいつも本読んでる二人って感じだね。」
「そうだったのか。」
沙夏の話を聞いて、ますます京本さんに親近感が湧いた。
「香奈ちゃん、可愛いよね。」
「そうなのか?」
「うん。隠れファンも多いんだよ。」
「そうか。」
「宗一郎もファンになっちゃうんじゃない?」
「ははっ。」
「何で笑ったの?」
「いや、それを沙夏が言うから。」
「どういうこと、それ。」
なぜか沙夏が怒っている。僕は何か無神経なことを言ったのだろうか。けど、全く心当たりが無い。
「すまない、何か気に障ること言ったか?」
「もう良い。宗一郎、のばか。むっつり無神経。」
それはさすがに傷ついた。まあ、僕が悪いのだろう。走り出し、一人で帰ろうとする沙夏を引き留め、
「待て待て。怒らせたのは悪い。だが、暗い中一人では帰らせない。」
と言って、心底不満そうな沙夏を家まで送り、家に帰った。

 「いや、それはお前が悪いわ。」
「どこがだよ。」
家に帰り、琉希に電話をかけた。普段連絡をよこさない僕から電話が来たことに驚いていた琉希だったが、話をするうちにだんだん呆れられていった。
「まず沙夏が最初怒ってたのは、一緒に座らなかったからじゃなくて、お前が京本さんと仲良くなって連絡先まで交換した事だと思うぜ。」
「そうなのか。」
「そうだ。そんで、お前が京本さんと話が合うだの何だのと彼女に言ったからそれは怒るに決まってるよな。で、挙げ句の果てには笑ったんだろ、お前。」
「僕は最低だ。」
「だな。分かったんならさっさと沙夏に電話しろって。じゃあな、切るぞ。」
「ちょっとまて。僕も聞きたいことがある。お前、奈波と何かあったのか?」
「それか。別に、何かあったわけじゃねえけど。この間、奈波のステージに行ってきたんだよ。そしたら、それから奈波のこと、幼なじみだとは思えなくなって。どうしたら良いのか分かんねえ。部屋の掃除とか、今まで通り頼まれるんだけど、どうしても意識して普通に出来ないんだ。自分でも、何でかは分かってる。けど、戸惑いの方が大きい。」
「そうだったのか。じゃあ、切るぞ。」
「おいおいおい、タイミング、おかしいだろ。まあお前らしいけど。」
「ああ。頑張れよ。話はいつでも聞く。じゃあな。」
そう言って僕は電話を切り、沙夏に電話をかけた。出ない。何度かかけてみたが、やはり出ない。相当怒っているのだろうか。
 次の日、沙夏は学校を休んだ。そこまで僕の顔を見たくないのだろうか。
「そうっち、今日沙夏休みだね。理由知ってる?」
「いや、けど心当たりならある。」
「あー、それはそうっちが悪いわ。で、謝ろうと思ったのに沙夏が電話に出なかったと。」
「ああ。」
「でもそれくらいで沙夏が学校を休むかな?あの子、熱があっても学校来てまで皆勤狙う子だよ。何かあったんじゃないかな。まあ、明日には来るでしょ。」
「そうだな。」
少し心配だったが、何件かメールを入れて、明日学校に来るのを待つことにした。だが、次の日も、またその次の日も、沙夏は学校に来なかった。連絡もつかない。
「そうっち、やっぱり今日皆で沙夏のとこ行こう。」
「ああ。さすがに心配だ。」
僕たちは三人で沙夏の家に行くことにした。
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