眠り姫と生贄と命の天秤
 ずっと握ったままの、リコをかばってくれるキトエの腕を、きつく握った。

 分かっている。全部、最初から分かっていた。リコが生きようとすれば、人々の安寧が失われる。

 けれど、なぜ奪われなければいけないのだろう。幼いころから魔女と疎まれても、忌まれても、耐えてきた。キトエと出会って、結ばれなくても、ただ一緒にいられるだけでいいと思った。

 生贄に選ばれて、生きたいと、普通の人なら当たり前に与えられることを願った。キトエと結ばれたとき、大嫌いだった神に初めて感謝した。逃げ延びて、もう一度願った。

 けれどまた奪われる。普通の人が望むことを望んでいるだけなのに。キトエと一緒にいたいだけなのに。生きていたいだけなのに。リコの願いも、命も、全部。

『どうして。どうして全部奪っていくの』

 叫び出しそうになったのを、飲みこんだ。飲みこんだ言葉が、痛い。神様が嫌いだ。大嫌いだ。

 握りしめていたキトエの腕が、動く。腰を抱き寄せられて、つらそうな瞳とぶつかって、唇が重なった。

 何が起きたのか分からないうちに唇が離されて、キトエはふらつく体でジヴィードを振り返る。

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