眠り姫と生贄と命の天秤

中毒症状

 高く飛んだ眼下で、風が白煙を巻きこんで吹き下ろす。ジヴィードへ、円くリコたちを囲んでいた兵たちへ広がっていく。

 眼前の空へ目を向ける。暗く深い群青に、まいたような星々と、照らされる薄もやのような雲、満月がふたつに割れたまばゆい月が、うそのように美しく、あった。

 全身を駆け巡る魔力で、キトエを左腕だけで支える。風を後方に撃って前へ。兵の囲いを越える。体が斜めになって、落ちる。

「メールオト」

 落ちていく、迫ってくる地へ向けて、風を撃った。

 キトエをかばって、リコは背中から地へ落ちた。一瞬、痛みで息が止まるが、風で落下の勢いを殺したので意識を失うほどではない。

「キトエ」

 リコの上に倒れたキトエの頬に触れると、キトエは顔を上げた。視線が揺れているが、まだ目覚めている。

「ごめ……リコ」

「大丈夫、全部あとでいいから」

 リコは起き上がって、ふたたびキトエの背と脚を抱えて走り出した。走りながら背後を見やる。薄い煙の中で、兵たちがうずくまっているのが見える。

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