眠り姫と生贄と命の天秤
 何が、と尋ねてしまいそうになって、遅れて分かった。今度はちゃんとキトエも手を止めてくれている。キトエから言いづらいだろうから、リコのほうから言うつもりだったのだ。けれどふわふわしていて、頭が回っていなかった。ずっとキトエの胸に押しつけていた顔を上げて、女性のリコよりよっぽど艶っぽい表情のキトエを見つめて、頷いた。

 キトエの指が出ていく。キトエがズボンに手をかけたのを見て、顔をそらして体をずらした。自分も脱いだほうがいいのだろうかとぼんやりと思って、けれど今さら恥ずかしくなって、はだけた胸元を腕で隠す。

「リコ」

 呼ばれて、腰を捕えられた。

「本当は主に言うことじゃないけど、おいで」

 散々主にとる態度ではないことをしておいて、何を言っているのだと思った。けれどまさかキトエにそんなことを言われるとは予想していなくて、苦しそうに、愛おしそうにのぞきこまれて、体が痺れた。とても恥ずかしいが、キトエの肩の傷に一番負担がないのは分かっていたから、キトエの上に座るように体を動かした。

 リコの声とキトエの息が重なる。強すぎて快感と呼べない感覚と痛みで、体が途中で止まる。

< 53 / 68 >

この作品をシェア

pagetop