眠り姫と生贄と命の天秤
 顔を近付けられたからキスをされるのかと思ったら、頬に止まっていた涙の粒を舐められた。

「綺麗じゃないよ」

「リコのなんだから綺麗だ」

 キトエはたまに妄信的なのだった、と気恥ずかしくなる。

「その……昏睡は、どう? 浄化された感覚はある?」

「落ちるような感覚はだいぶなくなったと思う。ただ、完全に解けたかは正直分からない。薄まったぶん、普通の眠気と区別がつかない」

 盲点だった。キトエもいつかは眠らなければいけない。けれど、眠ったらもう目覚めないかもしれないのだ。それは起きる瞬間まで分からないのだ。

 息がつまる。絶対にキトエを失いたくない。まだやれることはある。

「その……ふざけてるわけじゃなくて、嫌かもしれないけど……もう一回、してほしい、の」

 言いきる前に視線を下げてしまった。

「違うの変な意味じゃなくて! 一回でだいぶ薄まったなら次で治るかもしれない。可能性は全部試しておきたいの……後悔したくない」

 片頬を包まれて、身構える。間近でのぞきこまれる。

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