眠り姫と生贄と命の天秤

結婚したばっかり、とかでも

 男性は鼻白んだようで、ひざの上に足を組んで頬杖をついていた。演じているリコ自身も恥ずかしいのだから、当たり前の反応だ。だが、あさっての方向へ話をそらすことができた。

 思った瞬間、肩を強く抱き寄せられて、変な声をあげてしまった。驚いてキトエを仰ぐと、表情をそぎ落とした顔で男性を凝視していた。

 怒っている。ものすごく。

 肩に回された手が強くて、少し痛い。そのまま体を反転させられて、屋台を背に歩き出す。

「キトエ、あの……手」

 男性に呼び止められることもなく、屋台から充分距離をとれたところで、キトエを見上げた。キトエはずっと怒っていたのか、リコを認めて今しがた気付いたというように慌てて手を離した。

「す、すまない!」

「だ、大丈夫」

 そうして、別の屋台で鳥と羊の干し肉を手早く買って、街を出た。



 橙と桃色が混ざった夕空は、淡い紫に地平線まで追いやられていた。

「ご、ごめんねキトエ。あんなこと言っちゃって」

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