全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
 お嬢様が楽しそうにしているのは本当に嬉しい。

 しかし、以前のお嬢様のジャレッド王子への執心ぶりを間近で見てきた私には、どうしても今のお嬢様の態度が不思議だった。

 お嬢様は、本当にもう彼を気にしていないのだろうか。私が心配し過ぎていただけだったのだろうか。

 しかし、そんな考えを抱く度、頭の奥のほうを違和感がかすめる。

 まるで自分はもう一つの未来を知っているかのような、不思議な感覚だ。


 その未来は今とは違い、重苦しく、残酷で、何の救いもない。

 思考がそこに至る度に胸が重くなるのに、肝心のどんなことが起こったかは何も思い出せない。

 考えているうちにだんだんと意識がぼやけてきた。

 昨日は夜遅くまで街を歩いていたので、あまり眠っていない。今日は仕事もないし、このまま眠ってしまおうとソファに座ったまま目を閉じる。

 ぼやける意識の中で見た夢は、今見ている現実とは全く違うつらい光景だった。


***


 お嬢様がジャレッド王子に婚約破棄されてから一週間が経った。

 お嬢様はすっかり気落ちしてしまい、何をするにも元気がない。

 ただでさえ最近はジャレッド王子に冷たくされて気が滅入っている様子だったのに、決定的な決別を言い渡され今度こそ疲れきってしまったのだろう。

 せめてご家族が励まして差し上げたらと思うのだけれど、旦那様も奥様も兄のクリス様も、まるでお嬢様の過失かのように彼女を責めるだけだった。

 その上、使用人の中にですら旦那様たちのそんな態度に合わせるようにお嬢様を軽んじる者が出てきたので呆れてしまう。

 こんな状態ではお嬢様が元気を取り戻せるはずもない。日を追うごとに彼女はどんどん塞ぎ込んでいった。
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