全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
 お嬢様に心を痛めないで欲しいと、そしてすぐに忘れて欲しいと、心から願っているのは本当だ。

 ……けれど本音を言えば、ほんの少しだけお嬢様に気にして欲しいと思っているのは否めない。

 一日だけでいいから、ジャレッド王子のことばかり考えているお嬢様が私のことだけを考える日があったらいいのになんて、勝手なことを夢見てしまう。その感情が憐れみでも罪悪感でもなんでもいい。

 私のことなんてすっかり忘れてくれて構わない。

 つらいことは全て忘れて幸せになって欲しい。ただ、わずかな時間だけでいいからお嬢様の心に私が残ったらいいと願ってしまうのだ。


「これより、罪人サイラス・フューリーの処刑を行う」

 低い声が響き渡り、部屋中に緊張が広がるのがわかった。ちらりと横を見ると、先ほどの看守が泣きそうな目でこちらを見ている。

 私は静かに目を閉じた。

 悪くない人生だったと思う。最後にお嬢様を自由にしてあげられた。

 役人が合図する声がする。

 その瞬間、勢いよく刃が落ちる音が聞こえてきた。首元に今まで感じたことのないような衝撃と、痛みなのか熱さなのかわからない感覚が走る。

 感覚がぼやけ、目の前に白い光が広がった。

 どこまでも広がっていく白い光。

 遠くでお嬢様のすすり泣く声が聞こえたような気がした。ごめんなさい、ごめんなさいとか細い声で謝るお嬢様の声。

『私はどうなってもいいから、サイラスを……』

 ここにいるはずのないお嬢様の声がはっきりと頭に響く。

 私の意識は、いつの間にか光の中に溶けていった。
< 147 / 197 >

この作品をシェア

pagetop