全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
「ねぇ、サイラス。私あなたにすごく感謝しているの。いつも私を見守ってくれて、たくさん励ましてくれて」

「お嬢様……私は執事として当然のことをしたまでで」

「それにね、サイラスは私に人間らしい感情を取り戻させてくれたのよ。私、あなたがいなかったら何もかも恨んだままだったと思うの」

 お嬢様はひどく真剣な目をして言う。私にはその言葉の意味を図りかねた。

 人間らしい感情を取り戻させたとはどういう意味なのだろう。何もかもを恨むと言うが、お嬢様は理不尽な目に遭ってもむしろずっと明るく振る舞っているのに。

 私が尋ねる前に、お嬢様が口を開く。

「だから私、あなたにもらったものを返したいの。あなたが幸せになるためなら何でもしたい。そのためだったら私は不幸になってもいいわ。命だって差し出していい」

 お嬢様は曇りのない目で私を見つめながらそう言った。あまりにその瞳が真剣なので驚いてしまう。なぜお嬢様は、ただの執事である私にそこまで言ってくれるのか。

「お嬢様、不幸になってもいいとか命を差し出していいだなんて言わないでください。お嬢様が不幸になって私が幸せになれるわけがないではありませんか」

「それくらい強く思っているっていう意味よ。サイラスが幸せになるためだったら何でもするから、頼み事や欲しいものは遠慮なく言ってね!」

「お嬢様……」

 お嬢様は私の手を掴んだまま力を込めて言う。私は胸が詰まって言葉が出てこなくなり、ただその顔をじっと見つめることしかできない。

「……何もいりません。私はお嬢様が笑っていてくれるだけで心から幸せなのです」

 かすれた声でそう言ったら、お嬢様の目の奥が小さく揺れた。

 しばらく言葉に詰まったように俯いてしまったお嬢様は、顔を上げると泣きそうな顔で、それでも幸せそうな笑みをこちらに向けてくれた。
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