全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします

5.リーシュの神殿


 私は今日もお部屋でサイラスはどこへ連れて行ったら喜ぶのか考えていた。

 本人にも何度も行きたい場所はないか尋ねているのだけれど、あまり希望を言ってくれない。いつも微笑んで、「それならお嬢様の行きたいところがいいです」と言うのだ。

「私はサイラスの喜ぶ場所に行きたいのに……」

 侍女に頼んで買ってきてもらったリスベリア王国の観光本をぱらぱらめくりながら頭を悩ませる。

 王国の地理については妃教育で散々教えこまれたけれど、こういう一般向けの観光本を読むのは、考えてみれば初めてだ。その中でリーシュの神殿について書いてあるページに目が留まる。


「リーシュの神殿……。昨日夢に出てきたわね。カミリアが聖女の儀を受けたところ」

 リーシュの神殿は、リスベリア王国の建国に関わったとされている女神リーシュ様を祀る神殿だ。

 王国にいくつかある神殿の中でもっとも位が高く、偉大な聖職者たちが集まっている。カミリアも普段はここに通って働いている。

 
 リーシュの神殿について考えていると、昨日の夢に出てきた神官様の言葉が頭に蘇ってきた。

 神官様は聖女の儀の際、「リーシュ様はその愛が大きければ奇跡を起こす」、「リスベリアの人間は不思議な現象が起こると女神様のお導きだと感謝を捧げてきた」と言っていた。

 不思議な現象と聞いて、今の私に真っ先に思い浮かぶのはこの奇妙な巻き戻り現象だ。


「……まさか、この巻き戻りはリーシュ様のおかげだったりして」

 思わずそんな言葉が口からこぼれた。

 しかし、すぐにそんなわけないと思い直す。女神様が実際に不思議な事象を起こした話なんて、伝説以外では聞いたことがない。

 けれどなんだか妙に気になって、神殿について書かれたページから目が離せなかった。
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