全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
 困ったことに、私には突きつけられるような確かな証拠はなかった。あの日ミリウスとカミリアの世話係を見かけたのは私とサイラスだけだし、本当だと証明する術はない。

 嘘だと言われてしまえばそれまでだ。

 それでも、私は当日二人がいた場所や、時間、様子などを思い出せる限り詳しく話しておいた。話す度に会場の温度が変わっていくのを肌で感じる。

 ジャレッド王子は私の証言を全ていまいましげに否定したけれど、そばに控えていた役人は真剣な顔で聞いてくれた。

 ミリウスを取り囲んでいた衛兵たちも、状況の変化に彼の腕を離す。

 その様子を見ていたらミリウスと目が合った。彼は顔を強張らせて睨むようにこちらを見ている。
 嫌いな私が割って入って来たのが気に入らなかったのかもしれない。

 せっかく証言をしてあげたのに恩知らずだなと思いながらも、私は証言を続けた。


 結局、その日のパーティーは盗難騒動のため、騒ぎが収まらないまま中止となってしまった。

 私は残って役人に改めて詳しい話を聞かれた後、ようやく家に帰ることができた。

 やっと解放され、帰りの馬車の中で息を吐く。


「あぁ、疲れたぁ。こんなに時間がかかると思わなかったわ」

「お嬢様、お疲れ様でした」

「疲れたけれど、運が良かったわ。騒動のせいでジャレッド王子とカミリアが絡んでくる間もなくパーティーが終わったし」

 二人はミリウスの件が片付いたら、私に嫌がらせする気だったのではないだろうか。わざわざ私を王宮に呼んだのはそういうことだろう。

 けれど、予定外に話し合いがこじれたので、そんな余裕はなくなってしまった。運が良かった。

 ただ、パーティーが本格的に始まる前に終わってしまったせいで、サイラスと踊れなかったのは残念だけれど。
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