全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
 心臓の音が早くなる。

 サイラスはあの日一緒に王宮に来ていたはずだ。パーティー会場には入らず、別の部屋でほかの使用人たちと仕事をしていた。

 早く確認したくて気持ちが焦るのに、会場に入ってしまったせいでなかなか抜け出せない。

 いっそ入り口を見張っている兵士に追いかけられてもいいから会場から出てしまおうかと考えているうちに、あの婚約破棄騒動が始まってしまった。

 前回はあんなにショックを受けたジャレッド王子の言葉が、全く心に響かなかった。

 そんな話はどうでもいいから、早くサイラスを探しに行かせてという思いしか出てこない。

 それでようやく抜け出すタイミングを見つけると、私は一目散に会場から駆け出したのだ。


 やっと見つけたサイラスは、心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

「お嬢様、本当にどうしたんですか? やっぱりショックで気が変になったんじゃ」

「違うわ。本当にいいのよ。王子とカミリアは幸せになればいいわ」

「私は許せません。お嬢様をあんな目に遭わせておいて、のうのうと聖女と婚約し直すなど……」

「あなたはいつもそう言ってくれたわよね。それを聞き流して、私はなんて愚かだったのかしら」

 私がしみじみ言うとサイラスは首を傾げた。いいかげん、本当に頭がおかしくなってしまったと思われているかもしれない。

「サイラス。早く家に帰りましょう。あなたにしてあげたいことがたくさんあるの」

「…? お嬢様、一体どうしたんで……」

「いいから、ほら!」

 私はぽかんとしているサイラスの手を取って走り出す。心が浮き立って、何でもできそうな気がした。


 私はこの不思議な巻き戻り現象を、神様が「サイラスを幸せにしたいなら、自分の手でやり遂げなさい」と言っているのだと解釈した。

 奇跡みたいなチャンスをもらってしまった。

 私は神様に感謝して、強く決意する。この人生では恨みに振り回されないで生きよう。

 ただ、サイラスを幸せにするために生きるのだと。
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