冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
部屋の前で立ち止まる。
離れる手を寂しく思い、ついに言葉を発する。

「あの…正臣様。」
「香世…。」
声が重なり2人びっくりしてお互いを見つめる。

「何だ?香世から申せ。」
正臣にそう促されて、香世は繋いだ手をぎゅっと握って話し出す。

「あの…私…、あの…正臣様を、
ずっと前からお慕い申し上げております。」
自分の鼓動で声が掻き消されてしまうのでは無いかと思うほど、ドクドクと脈打つ。

ただ、繋いでいる手をじっと見つめていたが
一向に正臣からの返事が無く、
戸惑い目が泳ぐ。

「あ、あの…、実は…私、三年前…
あの時助けてくれた人に会いたいと…
ずっとお礼が言いたいと思い、
あの街路樹に何度も行ったんです。

でも…顔もうる覚えで…名前も分からなくて…正臣様だって分かって嬉しくて…
出来ればずっとお側に置いて頂きたいと…。」

突然、ぎゅっと抱きしめられてびっくりする。

「これは…夢か?」

正臣が言葉を発する。

先程からドキドキと脈打つ心臓の音は夢では無いと香世に告げている。

「…夢、では無いかと…。」
  
「香世には…想い人がいるのではないのか?」

よく分からず香世は首を傾げる。

「…私は…正臣様が良いのですが…。」

香世は言葉から溢れる思いはもう止める事も出来ず、抱きしめられながら必死で言葉を探す。
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