冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

父との対面

次の週の半ばに香世の父と会う事になった。

夕方正臣は早めに帰宅し、香世を迎えに来てくれる事になっている。

当初、無理をしなくても良いと言われ1人で会うと正臣は言っていた。

だけど香世の心は決まり、
会うなら早い方が良いと急きょ着いて行く事にした。

急ぎだったにも関わらず、
正臣は前日までに香世の為に艶やかな振袖を用意してくれた。

黒字に赤い花が咲く総絞りの振袖には、
黒字に金で刺繍を施した鶴が舞う帯も合わせて用意してくれた。

「こんな素晴らしい振袖、どうしたのでしょうか?」
香世は心配になって、
本家から戻って来たタマキに聞く。

「さぁ。
私は贔屓の呉服屋に取りに行くよう頼まれただけで、詳しくは分からないのですが、
正臣様が香世様にと見立てたらしいですよ。」

呉服屋は普通反物から仕立てる為、
どんなに急いで仕上げても3ヶ月はかかると聞いている。
どう見ても新品で丁寧に仕立てのこの振袖は
どのように用意されたのだろうかと、
つい気になってしまう。

「どう見ても高そうなお品で、
袖を通すのも緊張してしまいます。」
香世は恐る恐る羽織ってみる。

「香世様は旦那様のご婚約者になるんですよ。そのような事は気にせず、
思う存分楽しんで着飾って下さいませ。」

ニコニコ笑いながらタマキが言う。

タマキに手伝って貰い振袖を着付けていく。
いつもより丁寧に慎重に着付けた為、
多少時間がかかってしまった。

「香世、迎えに来たぞ。」
正臣が到着して、玄関で呼ぶ声がする。

「はい、只今。」
タマキと2人で慌てて髪を仕上げ、
鏡でお化粧を確認してから、
パタパタと小走りで玄関に向かう。
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