冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「二階堂中尉、今宵は定時でお帰りですか?」
総理暗殺未遂事件での傷もすっかり癒えた
真壁が、帰宅を急ぐ俺の足を止める。

「ああ、どうした?」

「良かったら剣の稽古をつけて頂きたかったのですが…お急ぎのようですね。」
真壁は悟ったように苦笑いをする。

「すまない。今夜は自宅に客人が来る。
出来るだけ早く帰らなければならないんだ。」

「お引き止めしてしまい申し訳ありませんでした。香世様が待っていらっしゃいます。
お気を付けてお帰り下さい。」

「ああ、明日稽古の時間を取るようにする。」

「ありがとうございます。」
敬礼する真壁を後に、俺は挨拶もそこそこに階段を足速に降りる。

松下が来る前に家に着きたい。

あいつが信用ならない訳では無いがいささか女癖が悪い。

口も上手く優しい見た目も相まって、
そこら辺の女子ならすぐに虜になってしまうと前田が言っていた。

俺の婚約者だと知っていて口説く事は無いと
思うが…
香世だけで合わせるのは不安しか無い。
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