冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
2日ぶりに司令本部に行く。

執務室に入ると待ち侘びていた様に真壁が
出てくる。

「香世さんの意識は戻りましたか?」
食い気味に聞いてくるから、

「ああ…。」
とだけ答えて事務机の椅子に座る。

真壁は、どう見ても嬉しそうに見えない俺に怪訝な顔を向ける。

「意識は戻ったが…
ここ3年ほどの記憶が無い。
だが、戻って来てくれただけで十分だ。」
その言葉に真壁はしばらく言葉を無くす。

そんな真壁を尻目に淡々と仕事を始める。

「仕事、思っていたよりこなしてくれたようで助かった、ありがとう。」

机の上の未処理の書類を見やりながら
真壁に礼を言う。

真壁はやっと、言葉を取り戻したかのように
事務机に駆け寄り、

「…そんな…そんな事って…。」

この数ヶ月、2人を見守ってきた真壁にとって
も衝撃的な真実だった。

「きっと、真壁の事も分からないだろうな…。
通り魔事件までの記憶しか無いんだ。」
淡々と話して聞かせる。

「そんな…今まで築いてきた2人の絆とか
どうなるんですか?無になるんですか?」
真壁が逆に感情を露わにする。

「また、ゼロからやり直すしか無いと思っている。香世が記憶を失ったからと言って、
俺は変わらないし、離れる気持ちは一切ない。」
真壁を見据えてそう告げる。
その目は強く揺るがない。
例え今までが無になったとしても、
香世の心を取り戻す為にまた始めるしかない。

「…そうですか。
何も変わらないなら自分は別に…良いのですが。」
真壁も少し落ち着きを取り戻してそう答える。

それから黙々と2人で仕事をこなし日が暮れる。
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