冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
組み敷かれて布団の上、
香世は正臣との距離の近さに緊張する。

唇を噛み締め、震える手をギュッと握りしめてただ、泣かないように正臣を見つめ返す。

両の手首を取られ、頭の上で片手で押さえ付けられる。
正臣との力の違いは大きく、
香世が抵抗しようとしてもびくともしない。

「俺1人で、こんなに震えているのに花街なんかでやっていけたのか?」
冷たい目で見下ろされる。

「こ、これは武者震いです…。」
香世は泣きそうになる自分を奮い立たせる為に、強がりを言う。

「お前の強がりは嫌いじゃない。」

正臣が妖艶に笑ったかと思うと、
香世の襟元を掴み大きく開かれる。

怖い、っと思い香世は咄嗟に目をギュッと瞑る。
昔受けた傷口に触れられビクッと体が震える。

正臣が思っていたより深い傷だった事を物語るその傷は、
5センチほどの大きさでミミズ腫れのように赤く盛り上がり、
白く綺麗な肌に歪に浮かび上がっていた。

正臣はその傷に唇を寄せる。

香世は固くなり次に何をされるのか目を瞑ったまま覚悟する。

フッと、掴まれていた手が離れ正臣の影が離れた。香世はそっと目を開ける。

「嫌がる女子を抱く趣味は無い。」
正臣はそう言って部屋を出て行ってしまう。

1人残された香世は訳が分からず涙が出てくる。

「うっ…うっ…うっ…」

布団で仰向けになったまま両手で顔を覆い、
声を抑えながら泣き続ける。

自分が子供だと思い知らされる。
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