冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

正臣の思い

三年前…、

殺傷事件の後、軍部に戻り医療室で傷の手当てをしながら少女の事が気になって仕方が無い自分に気付く。

傷口は深かったのだろうか?
あのあと、無事に帰れたのだろうか?

普通の人ならば刀を見た途端怯み、
体が固まるだろうに彼女は姉を守る為、
果敢に飛び出していった。

その瞬間が目に焼きついて離れない。

年の功なら14、5歳だろうか…。
女学生らしい海老茶袴姿が可愛かった…。

可愛いかった?

…自分にそんな感情があったのかと驚く。

その後、記憶は薄れていくだろうと思っていたのだが、ふとした時に彼女の事を思い出してしまう始末で…

例えば寝る前微睡む意識の中だったり、

仕事の合間の息抜きの瞬間だったりと、

どうしようも無く彼女の姿が駆け巡り
頭を悩ませた。

親の勧めで仕方なく見合いなんかもしたが、彼女のように心が動く事は無かった。

気付けば探し求め、彼女が誰なのか知りたいと思うようになっていった。

そして、遂に突き止めたのだが…。

彼女の家の事情を知り、
急いで自宅に部下を走らせたならばそこには既に居なかったと聞き、

大事な軍事会議の最中どうしようも無い不安に襲われた。

彼女の姉に花街に行ったのだと聞いた部下に、どんな手を使っても香世を連れ戻せと指示を出した。

香世を助け出せるのならば1000円だって惜しく無い。
 
その場はそう自分を納得させ、
彼女を連れ帰る事が出来安堵したのだが…。

香世自身は俺に買われたのだと思ってしまった。

俺にとっては香世を取り戻す手段にしか過ぎなかったのに…。

どうすれば良いのだろうか。
正臣は自室に戻り思わず頭を押さえる。

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