冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

「ただいま…。」
顔を上げて正臣様を見上げる。

えっ……衝撃が走る。

中折れ帽を被った正臣様の姿を見た途端、
3年前の出来事が走馬灯の様に蘇る。

断片的な記憶の中で…

通り魔に襲われた姉を私は咄嗟に
身を投げ出して助けようとした。

その時、怪我をしてまで助けてくれた人…

似てる……と思う。

人知れず心臓がドキンと高鳴り、
時が止まったかの様な錯覚を覚える。

あの後、
私自身も傷を負い2週間ほど死の淵を彷徨い、病院のベッドで朦朧とした意識の中、

あの人にお礼をしなければ…

と、その事だけを強く思い生きたいと願った。

退院してからしばらく、
同じ時刻にあの場所に行って

あの人に会いたいと…必死で探したけれど…。

半年ほど探したが、
龍一の世話や家事に追われる毎日で、
いつしか忘れなければと思うようになり、
頭の片隅に追いやってしまっていた…。

「どうした?」
正臣様が怪訝な顔で私を見下ろす。

あの人も中折れ帽を被っていて顔が良く見えなかったから、絶対だという確証は無い。

私が潜在意識のなかで、
そうだったら良いな、という気持ちがそう思わせてしまっているのだろうか?
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