シロツメクサの約束~恋の予感噛みしめて~
「そうだったか? あんなもの誰が作っても一緒だろ」

「そんなことない! 今日も器用だなって思った。空くんの治療しているの見ていて」

 子どもがじっとしていられる時間はそう長くはない。だからこそ彼の判断の早さと迅速な手さばきにしばしば見とれてしまった。

「誉めても何も出ないぞ。あ、それより今日熱烈なプロポーズされていたな。満更でもなさそうだった」

 歩きながらからかうように顔を覗き込まれた。

「もう、いくら私がモテないからって子どもの言うこと真に受けたりしないよ。きっと明日になったらすっかり忘れてるよ」

 クスクスと笑って返し朝陽くんの顔を見た。しかし彼はむすっとしている。

「奈穂はすぐに誰とでも結婚するって言うんだな」

「え、なに? そんなことないよ。第一そんな相手すらいないし」

 自虐めいた言い方になってしまったが、事実なのでしかたない。

「すっかり忘れてるみたいだな、あそこで俺になにを言ったのか?」

 彼が指さしたのは、昔からあるベンチだ。ペンキを塗り直したり何度か修復されたのか今も綺麗なままだった。

「私が朝陽くんに何かいったんだっけ?」

 必死になって当時のことを思い出そうとする。夕方彼と再会してからこれまでなんどか胸の中に浮かんできた懐かしい思い出。

 楽しかったこと、ちょっと意地悪されたこと、うれしかったこと、彼が大好きだったこと……。

「あ、あぁああ……私あのとき」

 黒歴史ともいえる出来事を思い出し赤面する。いくら小学生のときの話だからって恥ずかしいものは恥ずかしい。

「たしか俺が歯医者になったら、結婚してくれるって言っていたよな」
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