好き……その言葉が聞きたいだけ。【完】
 それから更に走り続けること数十分、大きな公園の駐車場に車を停めた律は、煙草に火を点けると窓の外を見ながら煙を吐き出した。

 相変わらず続く無言な状況に耐え切れなくなった私はいっそ謝ってしまおうかと口を開きかけた、その時、

「……悪かった」

 私より先に律が謝罪の言葉を口にしたのだ。

「……何に、悪いと思ってるわけ?」

 せっかく謝ってくれたのだから、そのまま許せばいいものを、私はつい余計な事を言ってしまう。

 こんなんだから、呆れられてしまうんだ。そう分かってはいても、出てくる言葉を止めることが出来ない。

「だからその、あれだろ? 林田に、お前をきちんと紹介しなかったこと……」

 どうやら、律は私が怒った理由に気付いたらしい。

「分かってて訂正しないとか、酷い……」
「……悪かった。別に、いちいち訂正する程でもねぇかなって思ったんだよ」
「何それ、重要なことだよ!?」
「だから、悪かったって」

 なかなか許さない私を前に、頭を掻きながら律は言葉を続けた。

「お前がそんなに怒ると思わなかったんだ。本当に悪かった。今度林田に会う事があればきちんと訂正しとくから、いい加減機嫌直せよ。な?」
「…………っていうか、あの人誰? 頻繁に会う人なの? 随分、親しげだった」
「林田は高校の頃のクラスメイトだよ。何でも知り合いがあの近所に住んでるみたいで、前にも一度会ったんだ。ただ、それだけだよ」
「……分かった、もういい。もう、許す……」

 女の人が誰なのかも分かったし、何より、律の誠意が伝わって胸の奥が暖かくなるのを感じていた私は、意地を張るのを止めて律の謝罪を受け入れ、

「私も……大人げなくて、可愛げなくて、ごめんね……」

 自分も悪かったと頭を下げた。

 そんな私の言葉には答えず、いつになく優しい瞳で見つめてくると、律は言葉の代わりに軽くキスをしてくれた。

「……律……」
「さてと、何か食い行くか? まだ時間あるし」
「うん……でも、もう少しだけ、ここで二人で居たい……」
「いいぜ」
「……あと、ギュッてして欲しい……駄目?」

 そんな私の小さな我儘に、

「ったく、しょーがねぇなぁ」

 面倒くさがりながらも律は私を自分の胸に引き寄せ抱きしめてくれた。

 何だかんだ言っても、やっぱり律は優しい。

 子供扱いされても、好きって言ってくれなくても、

 それでも私は、律が大好きだ。
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