好き……その言葉が聞きたいだけ。【完】
 放課後、律が迎えに来てくれる、たったそれだけのことだけど、私はすごく嬉しかった。

 律に言われたこともあって教室に戻ると、私の姿を見るなりまだ何か言いたげな新田が事ある毎に近付いて来ては、話し掛けようとする。

 だけど私はどうしても話をしたくなくて、休み時間も昼食時も、極力関わらないようにしていた。

 そのおかげか、ようやく新田は諦めたようで放課後になるとすぐに帰って行った。

 そのことに安堵した私が帰り仕度をしていると律からメッセージが届く。

《悪い、井岡(いおか)が打合せに来てるから迎え、少し遅れる》

 井岡さんというのは出版社で働いている律のお友達で、彼の才能を買ってくれている人。

《分かった、教室で待ってるね》

 そう返信した私は再び席に着いて律からの連絡を待つことにした。

(井岡さんと打ち合わせってことは、そろそろ新作でも書くのかな?)

 律はミステリー作家で、デビュー作は大ヒットした。

 まあ、私は本が苦手だから途中で挫折してしまったけど、とにかく人気作だというのは知っている。

 ただ、ここ最近はあまり調子が良くないようで、ヒット作を生み出せないせいか、律のやる気が削がれていた。

(忙しくなるのは淋しいけど、律には才能あるって井岡さん言ってたし、頑張って欲しいなぁ)

 そんなことを思いながら律からの連絡を待っていると、

「琴里」
「……新田」

 帰ったはずの新田が再び教室へと戻って来た。

「……帰ったんじゃ、なかったの?」

 気が付けば教室には私と新田しか居なくて、近付いてくる新田から反射的に距離をとる。

「帰ったんじゃねぇよ。どうしても話したくて校門で琴里が出てくるの待ってたんだ。今朝は悪かったよ。けどさ、俺……」
「分かった、今朝のことはもういいから、もう帰ってよ。私は、新田と話すことないし」
「なぁ琴里、あの時のこと、まだ怒ってんのか? 確かにいきなりキスしたことは悪かったと思ってる。でも、抑えきれなかったんだ。琴里のこと、好きだから」

 相変わらず一方的なことばかりの新田に、嫌気が差す。

「本当に有り得ない。そんなの、悪いと思ってたら出て来ない台詞だと思うよ?」
「怒るなよ。本当に反省してるんだって!」

 これ以上ここに居ては危険だと判断した私は教室から出ようとしたのだけど、その判断が少し遅かった。

 鞄に手を掛けようとした瞬間、新田に腕を掴まれ、その場から動けなくなってしまったのだ。
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