好き……その言葉が聞きたいだけ。【完】
6
 あの一件から数ヶ月が経ち、私や律の暮らしに変化が訪れた。


「律ー、ご飯出来たよ?」
「あー、悪い、もう少しキリがいいとこまで書けたら食うわ」
「そっか、分かった」

 ここ最近、律は再び小説を書き始めた。

 井岡さんの協力もあって、今作はなかなかの良作になりそうだと期待されている。

 そんなこともあって、最近律は以前にも増して引きこもり状態が続いているので、私は身の回りのお世話に余念が無い。


 それから、お兄さんと鈴さんのことだけど、あの二人はあれからもう一度二人で話し合った末、離婚はしないで一からやり直すことになったという。

 それを決断してからお兄さんは変わったらしく、最近では専ら鈴さん優先の生活をしているのだとか。

 律が言うには、結局何だかんだ言いつつも、鈴さんはお兄さんのことが好きで離れられなかったんだと思うって言ってた。

 本当に嫌いだったらとっくに離れていたはずだって。

 そう言われると、確かにそうだ。

 鈴さんにとって律という存在は、好きな人というより、心の拠り所だったのかもしれない。


「――おい琴里」
「ん?」
「お前そろそろ帰る時間じゃねぇか。遠慮しねぇで声掛けろよな」
「あ、本当だ! ぼーっとしてた」
「おいおい、ちゃんとしろよ。信用問題に関わるだろーが」

 いつの間にか門限の時間が近付いていたようで、律に声を掛けられて一瞬慌てるけど、

「ねぇ、今日は泊まっていっちゃ駄目?」

 今日が金曜日だったことを思い出す。

「先週も泊まっただろ? 流石に二週続けては駄目だろ」
「大丈夫だよ、お父さんもお母さんも律のことは信用してるから」
「いや、けどなぁ……」


 あの日、これからもずっと一緒だと誓い合った私たち。

 その後少ししてから、律は私の両親にきちんと挨拶をしてくれた。

 そして、結婚を前提に真剣な交際をしていることを、堂々と伝えてくれたのだ。

 それを聞いた両親は驚いていたけど、律が小説家と聞いた瞬間、お父さんは瞳を輝かせてサインを要求した。

 実はお父さんは律の書いた小説のファンだったらしく、それを知って終始興奮気味だった。

 そして私が高校を卒業したら籍を入れてもいいと言ってくれたのだ。

 ただ、卒業するまでは節度ある交際をというのが最低条件だから、それを守る為にも毎回お泊まりというのを律は許してくれない。
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