紫陽花が泣く頃に


目を覚ますと、白い天井が広がっていた。鼻をかすめるのは消毒液の匂い。

「和香……っ!」

声がしたほうに視線を向けると、なぜかお母さんの顔があった。

「なんで……」

「なんでじゃないでしょう!」

お母さんが肩を震わせて泣いている。ゆっくりと周りを見渡すと、白衣を着た人が何人も出入りしていた。……ひょっとして、ここは病院?

「和香はトラックに跳ねられそうになったんだよ」

お母さんの隣にはお父さんの姿もある。どうやら病院から連絡があったふたりは、急いで駆け付けてくれたらしい。

……跳ねられそうになったってことは、跳ねられてはいないってこと?

記憶は曖昧だけど、たしかトラックが目の前に迫っていたことだけは覚えている。寝ていた身体を慎重に起き上がらせると、腕にかすり傷はあるものの大きな怪我はしてなかった。

「小暮くんが庇ってくれたのよ」

「え……?」

周りを見ても彼の姿がない。嫌なことが頭を過った。

「……こ、小暮はどこ?」

もしも彼になにかあったら……。美憂みたいに小暮までいなくなっちゃったら、私は……。


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