紫陽花が泣く頃に


「あ、目が覚めたんだ」

病室のドアがノックされたあと、チューブのような管を手に付けたままの小暮が立っていた。その顔を見た瞬間に、一気に力が抜けた。よかった、無事だった。本当によかった……。

「小暮くん。まだ出歩いちゃダメだって言われたんじゃない?」

「この点滴が落ち終わったら帰っていいって言われたんで、大丈夫ですよ」

お母さんと普通に話している小暮だけど、その頭には包帯が巻かれていた。

私は今どんな状況で、小暮がどんな風に庇ってくれたかもわからないのに、彼はお父さんとも親しげに喋っていた。時計は十七時になろうとしていて、簡単に計算しても私は五時間近く眠っていたことになる。

「……なんなの、もう」

私が寝ている間に色々なことを済ませてしまった小暮に腹が立ってきた。

「不機嫌になれるぐらい元気でよかったよ」

この余裕も、気にくわない。

助けてくれなんて頼んでない。なのに、いつも助けてくれる。私よりも大きな怪我をしてるのに、私よりも先に動いて、私が会いにいく前に会いにきてくれる。

「バカ……! あんたになにかあったらどうするの! なにかあったら……私はどうしたらいいの。あんまり無茶なことはしないでよ。小暮が生きててよかった。また会えてよかった……っ」

文句を言いながら涙が出てきた。 

私のあまのじゃくな性格に、お母さんとお父さんがクスリと笑っている。

それから私も一通りの検査をすることになり、久しぶりに家族の時間を過ごした。「本当になんともなくてよかった」と言いながら、「帰りになにかご飯でも食べようか」と提案したのはお父さん。

「そうね」とお母さんが答えると、いつの間にか昔のように仲がいい家族の形に戻っていた。

それは美憂が一番望んでいたこと。たとえ両親が離婚していても、いい関係でいられるように美憂は架け橋になろうとしていた。

その架け橋は、ちゃんと今も残っているし、これからも壊れずにあるんだって思ったら、また泣きそうになった。


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