紫陽花が泣く頃に
「あ……」
部屋を見渡していると、美憂の写真を見つけた。まだ幼くて俺が出逢う前の美憂だ。
「可愛いでしょ? 小さい時から天使みたいだって言われてたよ」
柴田の言うとおり、幼い日の美憂はとても愛らしかった。この頃に出逢っていれば、間違いなく俺の初恋は早かっただろう。
「でも柴田も可愛いよ」
美憂の隣には柴田が写っていた。それは一枚じゃなく何枚も。
「べつに気を使わなくてもいいから」
「本当のことを言っただけだよ」
「はいはい」
柴田は褒めても不機嫌になる。けれど最近やっと私の写真も増えたんだって、嬉しそうにしてた。
「じゃあ、そろそろ美憂に会う?」
柴田の視線は、隣の和室に向いていた。俺は動揺しなかった。ここに来ると決めてから、美憂に会うことは覚悟していたから。
静かに襖を開けると、線香の香りが鼻をかすめた。
居間として使われている部屋には仏壇が置いてあり、そこに――美憂の遺影があった。
十五歳の彼女は、俺の好きだった無邪気な顔で笑っていた。
「私もずっと美憂と会うことを避けてたんだ。でも、手を合わせるなら小暮も一緒にって決めてた」
その言葉に吸い寄せられるように、美憂の元へと近づいた。腰を下ろして彼女と向かい合うと、本当に見つめ合えているような気になった。俺はゆっくりとまぶたを閉じて、両手を合わせる。
美憂。今まで来れなくてごめん。
俺は美憂の死から逃げていたんだ。
認めるのが怖かった。
認めたら、本当に美憂とさよならしなきゃいけないと思ってた。
でも、美憂は俺にたくさんのことを教えてくれた。
一緒に笑い合うこと、一緒に怒ること、一緒に泣くこと、全部美憂とだからできたと思ってる。
美憂をこんなに早く連れていった神様を何度も恨んだけど、美憂と出逢わせてくれたこの世界には感謝してる。
俺はこれからちゃんと胸を張って生きられるだろうか。
美憂。美憂。美憂。
まだこんなにも名前を呼んでしまうよ。