紫陽花が泣く頃に



放課後。俺は珍しく寄り道をした。それは昔、美憂と訪れたことがある公園だ。鉄棒と滑り台しか遊具がない公園だけど、ここには紫陽花の丘がある。

春は新芽が顔を出し、夏は青紫色の花をつけ、秋は色褪せた落葉(らくよう)低木(ていぼく)になって、冬は休眠期間に入る。美憂は四季によって姿を変える紫陽花が好きだった。

――『千紘くんは、紫陽花の花言葉って知ってる?』

この町には美憂との思い出が多すぎる。胸が苦しくなってきたところで、公園の東屋(あずまや)に人影が見えた。

……美憂? バシャバシャと水飛沫を飛ばしながら駆け寄ると、そこにいたのは柴田だった。

柴田はテーブルと向き合って、なにかを書いていた。右耳に髪の毛をかける仕草は美憂と同じで、まるでショートカットになった彼女がいるのではないかと思うほどだ。……俺、疲れてんのかな。目を痛いくらいに擦る。

美憂は生前、このとんがり屋根の東屋のことを『メリーゴーランド』と呼んでいた。丸い柱で形成され、なおかつ八角形の東屋はたしかにそう見えなくもなかった。


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