紫陽花が泣く頃に


結果として、家の中は無事に入ることができた。いくらやってもダメだったのに、お父さんの鍵を使ったら一発でいけた。どうやらバカになっていたのは鍵穴じゃなくて、私の鍵のほうだったらしい。

「ちょっと、鍵を見せてごらん」

私はキーケースから鍵を外して、お父さんの手のひらに乗せた。

「あれ、これうちの鍵じゃないよ」

「え?」

慌てて鍵を確認すると、たしかにいつも使ってるものと形が違った。だけど私が持っているのは家の鍵だけだし、他のものと付け間違えることは絶対にありえない。……ということは誰かにすり替えられた? その人物の心当たりなら、大いにある。

「どこの鍵だろう。うちの鍵はどうした?」

「えっと……」

本当のことを言えば、お父さんに心配をかけてしまう。いっそのこと落としたことにしたほうがいいだろうか。でもそうなると、お父さんの鍵まで変えなきゃいけないことになる。

「が、学校のロッカーの中かも」

犯人は菅野に決まってる。鍵がすり替えられてたってことは、私のカバンを漁った挙げ句に、キーケースにも触れたってことだ。……気持ち悪い。

アイツに家を知られてないのが唯一の救いだけど、私の鍵をすでに捨ててる可能性もある。それも含めて、早めに問い詰めなくちゃ。

「とりあえず俺の鍵を渡しとくよ。明日の帰りも和香のほうが早いだろうし」

「うん、わかった」

お父さんの鍵は、学校でも肌身離さず持っておこう。カバンもこれからは机の横にはかけられない。気持ち悪さと怖さが同時に襲ってきたけれど、お父さんの前では笑顔でいた。

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