紫陽花が泣く頃に
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きっかけは両親の離婚。私から見れば円満に思えていた夫婦仲だったけれど、知らず知らずのうちに修復できなくなっていたようだ。
「そんなに泣かないでよ」
公園にあるふたつのブランコ。地面に映っている私の影は揺れているのに、隣のブランコは止まったままだ。
「だって……っ。家族が離ればなれになるなんて絶対イヤ……」
「もう決まったことなんだから仕方ないよ」
この春からは中学生になる私は、離婚という重さは理解していた。同時に子どもの私たちがなにを言ったって変えられないということもわかっていた。
「……ひく、和香ちゃんは寂しくないのっ?」
肩を震わせている美憂の目が真っ赤に充血している。
「まだ実感がないから、わかんないよ」
「私は和香ちゃんと離れるなんて無理だよ……」
「でも離れて暮らすって言っても同じ町だし、こうして公園で待ち合わせることもできるじゃん」
「待ち合わせしなきゃ会えないなんて、家族なのにおかしいよぅ……っ」
――高木美憂と私は、二卵性の双子だ。
美憂のほうが姉で、私は妹。お母さんのお腹にいた時から一緒だった美憂と明日からは別々の生活になる。そして私はお父さんのほうに引き取られて、苗字はすでに高木から柴田に変わった。
私も美憂と離れて暮らすのは変だと思う。でも結婚は婚姻届に判を押して役所に提出すれば家族になる。それと同じように離婚も離婚届に判を押して役所に提出すれば、家族じゃなくなる。
お母さんとお父さんがすでに夫婦ではない以上、私たちはふたりが決めたことに従うしかないのだ。