ムーンサルトに 恋をして

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「えぇーっ?!じゃあ、ナナ1人で卒業旅行をするってこと?」
「……ん」
「だから言ったじゃん!私たちと一緒に行こうって……」
「………」

親友の福原智子(ともこ)が私の別れ話を聞き、溜息を漏らした。

同じ大学で同じ学部を専攻していた彼女は、『女の子4人で卒業旅行しよう!』と計画を立ててくれたのに、譲に『2人で行きたい』と言われ、何度も誘われたのを断っていた。
こんなことになると分かっていたら、彼女たちと卒業旅行に行きたかったのに。

智子たちは明日羽田発でタイとシンガポールに1週間ほどの旅行を計画している。
今から予約済みの航空券やホテルをキャンセルしたとしても、タイ行きの航空券やホテルを確保するのは厳しそう。

智子の自宅で苦笑する私は、3日後の旅行を悩んだ末、せっかくだから1人で楽しんで来ようと決断した所。
そんな私を智子は呆れた様子で背中を何度も摩ってくれている。

「ベストカップルだったのにね」
「もう黒歴史だから」
「あのゲス野郎ッ!!譲ぅぅぅ~~地獄に堕ちろぉぉ~~ッ!!」

気が短い智子は譲が映っている写真にボールペンを突き刺した。

「お土産、楽しみに待ってるから」
「そんな暢気なこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「だって、仕方ないじゃない」
「もうっ、ホントにお人好し過ぎるんだからっ」

知らないうちに涙が溢れていたようで、智子がティッシュを差し出した。

先々週に賃貸物件を譲と見に行ったばかりなのに。
新生活がスタートして、仕事に慣れたら同棲するつもりで。

なのに、まさか……。
就職先の先輩に一目惚れ、たった1日で4年間積み上げた関係が覆されるだなんて……。

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