ムーンサルトに 恋をして
地上13メートルの世界

ジルと再会を果たしたとはいえ、所詮知り合い程度の仲。
近場でお互いに仕事をしていても接点がない。

居場所は分かっているのに、会いに行く理由が思いつかない。

そもそも会いに行く必要がないのは分かっている。
だけど、気になってしまって……。

一度でも肌を重ねた相手だから?
ううん、違う。
昔の彼氏に街中で行き会っても何とも思わないもの。

なのに彼だけは、歴代の彼氏とは何かが違うようで。
もう一度会ってみたら分かる気がしていた。

このモヤモヤとした感情が何なのか……。
どうしたら、すっきりするのかという事を。

**

土曜日の朝。
今日はサーカスの公演初日ということもあって、朝早くからショッピングモールのサーカステント付近の駐車場は車がびっしりと埋め尽くされていた。
他県ナンバーの車も多く、夏休みの土曜日という事もあり、親子連れやカップルの姿が多く見受けられる。

11時30分開演とあって、10時を過ぎるとモールの開店と共にテントからも音楽が流れ始めた。
ズンズンズンズズンッ、ズンズンズンズズンッ……
テント内に入ると、スナック販売が幾つかあり、アメリカンドーナツの甘い香りが漂って来る。

管理部の緑川さんと集客データを取るため、入口付近で客層や人数を把握していると、トントンと肩が叩かれた。
振り返ると、そこにいたのはステージ衣装を身に纏ったジルが。

「どうしたの?」
「ちょっと」
「緑川さん、ごめんなさい、ちょっと席外します」
「はい」

彼女をその場に残し、ジルのあとを追うと、客席の下の陰になる部分に。
誰もいないそこは秘密部屋のようで、ちょっとしたスリル感がある。

< 24 / 46 >

この作品をシェア

pagetop