ムーンサルトに 恋をして

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ジルと連絡先を交換しておけばよかったと後悔した。

見知らぬ土地で独りきり。
傷心旅行という点に於いては1人でいる方が気が楽なのだけれど、さすがに1週間もの間、ずっと独りぼっちでは寂しい。
旅行2日目にして、話し相手が欲しいと思ってしまった。

病んでいる時は、とことん病んでいるらしい。



昨日より少しお洒落をして、マンハッタンに繰り出した。
もしかしたら、いるかもしれないと思って……。

セントラルパークのSheep (シープ)Meadow(メドウ)
昨夜訪れた芝生のある広場。

彼がここで演技していたのは20時前後。
現在の時刻、まだ18時前。

同じベンチに腰掛けて広場を行き交う人々をボーっと眺める。
ジルの姿はそこには無かった。

まだ時間が早いからかもしれない。
もしかしたら、お兄さんのお店にいるのかもしれない。

だけど、予約もせずにお店に入れるとも思えない。

ニューヨークまで来て、私は何をしているのだろう?

本当ならば、今日は日中に動物園に行って、夜はオペラを楽しむ予定だったのに。
1人では楽しめそうにない。
決心して来たはずなのに、結局は足が動かないなんて……。

陽が落ちると急に冷え込んで、厚手のコートを着ているのに肌寒さを感じる。

肌を寄せ合い、見つめ合って。
幸せそうに会話しながら目の前を通り過ぎる恋人たちが羨ましく思えた。

イヤホンを耳につけ、スマホで音楽をかける。
目を瞑って、今にも零れそうな涙を必死に堪えようとしても、自然と溢れ出した、その時。

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