捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
 そう言って差し出された手はトレードマークだった白手袋をつけていない。
 戸惑う私の手をすくい上げて、指先に艶めく唇を落とした。そのまま腕の中に囚われてしまえば、私の瞳に映るのはあなただけ。

 離れなければいけないと頭では理解しているのに、歓喜に震える私の身体はピクリとも動かない。
 このまま、私の心のまま選んでもいいの?
 それでもあなたは後悔しないの?

 私の揺れ動く心を見透かしたように、彼は追い打ちをかける。


「俺はロザリア以外なにもいらない」


 それは執事としてではなく、彼自身の言葉。


「同じ気持ちなら、俺にキスして」


 ずっと私を想ってくれていた。
 ずっと私に気持ちを伝えてくれた。

 本当は自分の気持ちなんてとっくにわかってた。
 もうこの夜空の瞳から逃げられない。
 違う、もう逃げたくない。


 まだ間に合う?
 一度は諦めようとしたけど、私はあなたを望んでもいい?


「私…………私は————!」


 私の脳裏に甦るのは初めて会ったあの日のことだった。




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