捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
 ラクテウスの街は活気があって、すれ違う人々も笑顔を浮かべている。秘境だと言っていたので、実はもっとこう原始的な生活を想像していた。
 煉瓦造りの家が並んで市場には野菜や肉、果実や雑貨まで揃っているし生活していくのにまったく問題なさそうだ。

 それにしても、先ほどからやけにジロジロ見られている気がする。やはり見慣れない人間に警戒しているのかもしれない。
 いたたまれなくて、雑貨屋の商品を見るふりをして視線に背を向けた。

「アレス、私が来て本当によかったのかしら?」
「ええ、まったく問題ございません。安心して下さい」
「でもすごく視線を感じるわ……場違いだったのかしら」
「それはお嬢様が美しすぎて周りの者が見惚れているのでしょう」

 サラッと耳まで赤くなるようことを言わないでほしい。せっかく引いた汗がジワリと滲んできそうだ。

「でもアレスと私を見比べるような視線なのよ? やっぱり私がよそ者だから反感を感じてるのではないの?」
「ああ、旅に出てから戻ってきていなかったですし、私が成長期を迎えたのでみんな気づいていないだけです」

 そんな会話を聞き取った雑貨屋の主人が、ポツリとつぶやく。

「えっ……やっぱり、アレス様……?」
「久しぶりだな、クルガン。元気そうで何よりだ」

 そのやり取りをきっかけに、市場中がざわめき始めた。

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