捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
「ロザリア様だ。わかっていると思うが俺の大切なお嬢様だから丁重に対応してくれ。急に囲まれたら怯えてしまうだろう」

 アレスの声が近いと思ったら、横抱きにされていた。
 慌ててアレスの首に手を回して落ちないようにしがみつくと、とろけるような微笑みで見つめ返される。

 ハッとした街人たちが申し訳なさそうに距離を取りはじめた。

「お嬢様、まずは私たちの住まいに案内いたします。そのあと今後について具体的に決めましょう」
「え、住まい? 私たちの住まい?」
「はい、お嬢様がお住まいになる家を用意しております。私はお嬢様の専属執事ですから当然同じ家屋で暮らします」
「そうだったの、さすがアレスね。ではその家に案内してもらえる?」
「承知しました。では参りましょう」

 アレスに横抱きされたまま市場を抜けていく。アレスの肩越しに振り返れば、みんな笑顔で見送ってくれていた。
 カーテシーができないのでそっと手を振れば、今度は両手を大きく振ってくれる。とりあえずは受け入れてくれたようでホッとした。

「アレス、ここからひとりで歩くわ。下ろしてもらえる?」
「いけません、また街の人たちに囲まれるかもしないので、このまま私がお連れします」

 アレスの真剣な眼差しに、恥ずかしく思う自分が悪いような気がして何も言えなくなった。

 でも心臓に悪すぎる。緊急時でもないのに密着状態でどうしていいのかわからない。いくら専属執事だとはいえ異性とこんなに密着したことなんて今までなかったのだ。

 だから家の前で優しく下ろされたときには魂が半分抜けかけていた。
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