捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
 アレスが頬をほんのり染めて見つめてくるのを余裕で受け止める。この一ヶ月で少しは免疫ができてきた。
 何より私は専属執事のアレスが食いっぱぐれないように、しっかりと稼がないといけないのだ。いくらアレスが稼いでくると言っても、そんなのは雇用者として容認できない。
 離縁もされて貴族籍も抜けたような状態ではあるけれど、矜持だけは失いたくなかった。

 そしてそれが私の新しい生きる目標になっている。

 性格的なものだと思うけど、庇護する対象があった方が頑張れるのかもしれない。私ひとりだったら、ここまでできてないと断言できる。

 魔道具を作り始めた動機もそうだ。
 屋敷のメイドがお湯が冷めたら沸かし直しに行っていたのを見て、お湯が冷めなければいいのにと思ったのがきっかけだ。
 ポットの温度を保つ魔道具を開発して使っていたら、父の目に止まったのだ。

 私の魔道具でみんなが楽になって、笑顔になるのが嬉しかった。私の大切な人たちに笑顔でいてほしかったのだ。
 私が作りたいのはそういう魔道具だったと、今更思い出した。

「お嬢様、しばらくは私が受付や雑務を担当致します。お嬢様は魔道具の作成に専念していただけますか?」
「そんなことまで頼んでいいの?」
「屋敷の管理と言っても二階部分だけですし、むしろ暇なくらいです。お越しいただくお客様のためにも、魔道具の種類は多い方がよろしいでしょう」

< 84 / 239 >

この作品をシェア

pagetop