幸せを受け止めて~騎士団長は月夜に淑女をさらう~
ファーレンハイト家の面々は昼過ぎにラーデマッハー伯爵家に到着した。
久しぶりの再会を喜ぶ両親とは対照的に、
クララとマルクスの表情はどこか暗い。

「それじゃあ私たちは退出するとして、若い2人はごゆっくりね。」
いつになく上機嫌なカサンドラにそう言われて、
クララとマルクスは応接室に2人でポツンと座る。

「やぁ、クララ。久しぶり。」
ぎこちない笑顔でマルクスが遠慮がちに声をかける。
「お久しぶりです。マルクス様。」
クララも愛想笑いを返す。
そしてまたしばらくの沈黙が訪れた。

「クララはさ、この縁談に納得してる?」
突然の問いかけにクララは口ごもってしまう。
(本音を言っても大丈夫なの?)
「ここには僕たちしかいない。本音を言って。」
マルクスの真っすぐな瞳に促されて、クララは素直な気持ちを語った。
「マルクス様のことは少しも嫌じゃないです。でも、ごめんなさい。心に思う人がいるの。」
「そっか、やっぱり。君もなんだね。」
「君『も』って・・・?」
「そのまんまの意味だよ。つまり、僕『も』心に思う人がいるってことさ。」

その瞬間、一気にマルクスに親近感が湧いた。
(なんだ、私たちは同じ目的のために戦う同志になれるじゃない。)
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