夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。
ハイになっているのだと思った。

実際,そう見えた。

俺だって,薄々勘づいている。

その人は,絶対にどこか普通じゃない。

だけどそんなこと,彼女自身1番分かっているんだ。

だけど麻痺したように,目蓋を下ろし笑っている。

もう他に,手の施しようがないのだと思わせるほど。

俺にはそうさせないくせに,諦めることを受け入れて,幸せそうに笑っていきている。

彼女の話が,もう殆んど入ってこなかった。



「じゃあ……またね」



口元を変化少なく緩めて,その人は振り返る。




夜空(きみのひとみ)に光る,たった1つの星を目指して」



かと思えば瞳を閉じてくるんと回った。



「私は消毒にも盾にも爆弾にも。寂しい夜に抱き締めるぬいぐるみにだってなるよ……最後のそれだけは比喩だけど」



覚えておいて。

そう彼女がくすくすと口元で囁く。

カラァン……と。

グラスがぶつかるような幻聴がした。
 
2つの杯にポップな星がころころ満たされて,俺達の上でひっくり返る。

真っ暗な夜空から星がふり,この世の全てになって俺達を包む。

その音は,俺達の新たな兆しに思えた。

その人が俺を見るのとは違って。

俺は彼女の事を何も分かっていないけど。

そんな俺の気持ちなんで多分,彼女にはどうでもよくて。

俺の存在そのものが,あの初めて逢ったその瞬間に,その人の何かを刺激したのだ。

それはきっと必然で,止められる程力の弱い反応ではなくて。

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