夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。
彼女の言葉を借りるなら,そう。

俺の存在が,彼女へ何らかの形に大きく成長を遂げさせたのだ。

時は止まらない。

それを決して否定的に捉えていない彼女が,その事を誰より非情と感じているなんて事に俺が気づいたのは。

自分だけが救われて安心しきった,そのあとだった。

笑顔ばかりで,霞んで,ぼやけて。

風にのって溶けてしまいそうな彼女は,いつだってその時掴まないといなくなってしまいそうだった。

自分の鈍感さと薄情さに,俺が後悔するそのときまで。

その瞬間まで彼女が独りで苦しんでいたことに,俺は気づけなかった。

そして同時に……目の前の人間へと蜃気楼を見せる術を心得ている彼女に…その才能があった彼女に。

俺は気づかせて貰えなかった。
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