転生公爵令嬢のイチオシ!
「もう大丈夫なの?」

「大変だったわね」

次の日、ふたりはすぐに来てくれた。

「うん。来てくれてありがとう。こんな格好でごめんね」

ベッドの上からまだ出られないので、ネグリジェにショールを羽織っている。

「まだ安静にしてないといけないんでしょ?気にしないで」

早苗様は優しく気遣ってくれた。

「攫って眠らせるなんて卑怯なヤツよ!!」

里英ちゃんがすごい顔して怒ってる。

「!!」

それを聞いて体がビクッと反応した。
途端に涙がポロリと流れてくる。

「え?アイツにもしや何か…」

里英ちゃんが焦って固まる。

「できるだけ抵抗したけど、だんだん力が入らなくなって…」

思い出すとまた涙が流れた。
早苗様が背中を撫でてくれる。

「私は力が入らなくて、もう駄目だって…!もうレイ様に会えなくなるかもって!」

涙が止まらないよー!

「気づいたらこの部屋にいて…。私が眠ってるあいだに…アイツに何かされちゃったのかな?怖いけど、教えて……うぅ…」

「そっか。聞いてなかったか。それは怖かったね」

里英ちゃんがため息をついた。

「レイ様が助けてくれたって聞いたわ。でもこんなこと誰にも聞けないし、聞くのも怖いし!もし、もうレイ様に嫌われてたら、どうしよう!!」

「…どうして嫌われたらイヤなの?」

「え?」

顔を上げて早苗様を見る。

「『イチオシ』は『お兄様』でしょ?じゃあ、いいんじゃない?」

お兄様?
そう、私の大好きなお兄様がいればよかった。

でも今は…。

「…イヤ。レイ様に、会いたい」

レイ様に会いたい!
あの綺麗な濃い紫色の瞳を見たい!
またあの笑顔を見せて欲しい!
手をギュッて握って欲しい!
抱きしめて欲しい!!
優しいあの人に……。

「私、レイ様が……」

好き…。

「もう分かったでしょ?」

「…うん」

赤い顔で頷く。

ふたりがクスリと微笑んだ。

「睡眠薬入りのジャムを食べさせられたけど、あとは何もされていないわよ」

「え?本当に?」

「あなたが必死で抵抗したあとは、ストライブ様が駆けつけたからね」

「そうだったんだ。…でもまだ会ってくれるのかな?」

ホッとしたけど、不安でふたりに訪ねる。

「今すぐにでも会いたいと思ってるはずよ!」

里英ちゃんは私の顔の涙をハンカチで拭いてくれた。
それから里英ちゃんは泣きそうな顔をしてギュッと私を抱きしめた。

「え?」

里英ちゃん?

「もう!本当に心配したんだからね……」

里英ちゃんの体が震えている。
泣いているの?

「前世の時、前田さんには突然会えなくなってしまったのよ。暴走した車が向かって来た事故でそのまま…」

「……そう…だったんだ」

早苗様が悲しい顔をして前世のことを教えてくれた。
私は覚えていなかった。

それからふたりは私の体調を心配して早めに帰り、またお見舞いに来るわねと言ってくれた。

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