吸血鬼令嬢は血が飲めない



蝙蝠の羽が、体の一部が、焼け落ちている。
再生しようにも上手く機能しない。
この感じは覚えがあります。遥か昔、太陽の光にこの身を焼かれた時と同じ。聖なる力によって、吸血鬼の体が蝕まれる時と同じ屈辱…。

ご主人様に匹敵する力を誇る私スアヴィスが、これほどの手傷を負った。
それは大いなる危機であり、同時に大きな転機でもありました。

「……お嬢様。」

不思議と、私の頭は冷静でした。
大切なお嬢様は、私の安否には目もくれず、あの人間と共に逃げ去ったというのに。

私は有能な執事でございますから。
素直ではない、儚く弱いお嬢様の内なる思惑を、そっと推し量るのです。

お嬢様はこれからどこへ向かわれるのか。
私は先回りして、どこへ行くのが最適なのか。
そしてどう行動すれば、“私達”にとって一番良い結末となるのか。

「……ふ……。」

笑い声が漏れたのは、生まれて初めてです。
あぁ、もうすぐですよ。お嬢様。
もうすぐゲームは決着致します。

「…楽しみです。お嬢様…。」
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