婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
 やはり毒物だった。しかもテトラキシンなんて致死率の高い毒物で、状態によっては解毒薬では手遅れになる場合もある。助けられてよかったと胸を撫で下ろした。

「王妃様、運がよかったですね。カールセン伯爵家の治癒士でなければ、ここまで綺麗に治っていませんでした」
「な、なんですって……? そ、そんな危険な毒物だなんて聞いてないわ……!」
「母上。それはどういうことですか?」

 アルテミオ様の低い声が室内に響く。フィル様を彷彿させる黒いオーラをまとい、射るように王妃様を見つめた。

「なんでもないわ。こっちの話よ」
「ごまかさないでください。確かに『そんな危険な毒物だと聞いていない』とおっしゃいました。毒を盛られたというなら、なぜ事前に知っていたような口ぶりなのですか?」
「それは……情報を掴んでいたのよ。事前にその女が毒を盛ると情報を掴んでいたのよ! だからいざという時のために毒消しだって用意していたの!」

 そう言いながら王妃様はドレスのポケットから小さな小瓶を取り出した。

「確かにその毒消しは数日前に私が処方したものです」

 専属治癒士の証言もあり、王妃様の話す内容に矛盾はない。

 でも、毒を用意した犯人は致命的なミスを犯している。
 ——私はそれに気が付いた。


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