婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
「それは僕の執務室の隣にある仮眠室へ運ばせた。これでいつでもラティの匂いを堪能できる」
「へ……変態腹黒!?」

 心の叫びが言葉になって、思わず口から飛び出した。私の匂いがするベッドを仮眠室へ運んで、いったいなにをするつもりなのだろうか。聞きたいけど、怖くて聞けない。

 正気に戻ってしまったら、この状況から逃げ出したくてたまらなくなった。

「はははっ、ラティにそんな風に言われるのも久しぶりだね。で、その変態にこれからどんなことをされるかわかってる?」
「わ、わかりたくないので、一旦白紙に戻してください!」

 フィル様は私の焦りがにじむ叫びなどまるっと無視して、その麗しく艶々な唇を額へ、頬へ、顎先へと落としていく。最後に耳へチュッとリップ音を立てて、そのまま甘いとろける声で囁いた。

「それは却下だ。ラティも僕が欲しいと言ったでしょう?」
「あ、あれは、その……」

 たったそれだけで、じわりじわりと身体の奥から熱がぶり返す。こんなにもフィル様に翻弄される自分が恨めしい。

「僕にすべてを捧げて。これは王命だよ」
「そんな……!」

 職権濫用どころか、権力を盾に王国最強の命令をされてしまった。

 こんなことに王命って……!! でも、王命なら仕方ない——?

 それは私がこの状況に流される言い訳として十分すぎた。もしかしたらフィル様はそんな私の気持ちも見透かして命令したのかもしれない。

 もしそうだとしたら、もうこの先どんな時もフィル様を拒めない。



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