婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
『なるほど……食後三十分ほどで倒れたのか。アンバーの鑑定眼も確認が必要だな』

 長く深いため息を吐いたフィルレス様は『ラティのそばにいる』と言い残し、執務室を後にした。

 それからラティシア様が目覚めるまで、フィルレス様は無口だった。事情を知らない貴族たちの前ではいつも通りに振る舞っているけれど、そのギャップが痛々しくて見ていられない。

 なぜ、フィルレス様なのだろうか。両親の愛も知らず、周りはその孤独を理解せず理想を押し付け、やっと見つけた最愛の女性すら失いそうになっている。

 この時ばかりは神なんてこの世にいないとすら感じていた。



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