婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
「はい、今日から私に教育してくださることになって……先ほどご挨拶をしてきました」
「へえ、僕はなにも聞いてないけどね?」

 怒りの感情が自分に向いていないとわかっていても、フィル様が放つ凍てつく覇気に身動きできない。 

「ブリジット嬢、打ち合わせはこれで終わりだ。下がれ。アルテミオは僕の具合が悪いから、専属治癒士のラティを返してもらうと王妃に伝えろ」

 ふたりを振り返りもせずフィル様は冷たい声で言い放つ。ブリジット様とアルテミオ殿下の息を呑む様子が私にも伝わった。

「し、失礼いたしますわ」
「……承知しました、兄上」

 ブリジット様とアルテミオ殿下が去ったフィル様の執務室には、いつもいるはずのアイザック様もいない。つまり私とフィル様のふたりきりだ。

「ラティ、ソファーの端に座って」
「はい……」

 言われた通り慣れ親しんだソファーの端に腰を下ろす。当然のようにフィル様の頭が私の太ももの上に乗せられ、空色の瞳で見上げてきた。

「うん、これなら落ち着いて聞けそう。それで、どういうことか聞かせてくれる?」

 フィル様から放たれていたどす黒いオーラは霧散して、満足そうにいつもの微笑みを浮かべている。その状況でこの三十分ほどの出来事をフィル様に膝枕で説明する羽目になった。


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