卒業

「卒業」

「……好き、だよ。」


ふと、漏れた言葉に自分自身でも
びっくりする。

隣を歩くあいつには
この言葉は聞こえなかったみたいで、
沈みかけた夕焼けを片目に
ぼんやりとただ真っ直ぐ進んでいた。

通い慣れた学校も、
見慣れたこいつの横顔も、
明日で全部終わるんだって思ったら
なんだか感傷的になってしまう。

だからこそ、
ふと口をついてしまったのだと思う。

いけないいけない、
告白は明日する予定だから
こんなところで伝えてしまうのは
想定外すぎる。



「なぁ。」



数歩後ろを歩く俺が声をかけると
あいつはこちらを振り返る。

「どうしたの?」と笑いながら、
足を止める。



「明日で、卒業だな。」

「そうだね、
あっという間の学園生活だったね。」

「なぁ、明日お前に話があるんだ。
そんなに時間はかからないと思うから、
少し時間をくれないか?」



あいつはきょとんとした顔をしていたが、
俺の真剣そうな顔を見てか
クスッと笑ってコクリと頷いて見せる。

俺はこいつのことを好きになって
2年が経ったものの
いまだに告白を切り出せずに
ずるずると来てしまった。

本当はもっと前に
すればよかったのかもしれないけど、
俺にはこの関係も捨てがたくて、
この時間も大切にしたいと思っていた。

だけど、俺たちは明日卒業をしてしまえば
きっと会うこともなくなってしまう。

だからこそ、
明日思いを伝えなければと思ったのだ。



「じゃあ、また明日。」

「ああ、またな。」



学校の校門を抜け右手に曲がり、
あいつに手を振ると俺は帰路についた。

明日、うまくいきますように。

この思いがしっかり届きますように。

そう願いながら、その日は眠りについた。

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