彼女の夫 【番外編】あり
溜まっていた決裁文書を全て片付けたところで、壁掛けの時計を見上げた。

20時40分。
まだ少し早いか・・。

その時、グゥーッと腹が鳴った。
ロールケーキを2切れほど食べたとはいえ、もう21時前だ。

『夕方から備品の入れ替えがあって立ち会う予定』

そう言っていた彼女も、まだ食事をしていないかもしれない。
何となく、仕事をしているスタッフを横目に食事をするイメージが持てなかったから。

「少しだけ、用意するか・・」

もし彼女に断られたとして、後で俺が食べればいいわけだし。

俺はオフィスのすぐ近くにあるメキシコ料理店に行き、トルティーヤに具材を乗せて包んだタコスを何種類かテイクアウトした。

彼女の口に合うだろうか・・。

気になりつつも、そのままクリニックに向かいドアをノックした。

「こんばんは、服部です」

『はーい』と声がして、私服姿の彼女が奥から出てくる。


ほら・・やっぱり。
そう・・だよな。


彼女は、電車で会った時と同じ服を着ていた。
俺は持ってきた軽食に、『お礼』という明確な理由がついたことが嬉しかった。

「こちらへどうぞー。その後、痛みは無いですか?」

処置室の一部にだけ灯りがついていて、俺はそこにある椅子に座った。
彼女はそーっと包帯とガーゼを取り、患部を診ている。

その時。
グゥーッと、俺の正面から音が聞こえた。

「やだっ・・すみません・・あぁもう、恥ずかしい」

真っ赤な顔で、俯きながら処置を続ける彼女を可愛いと思った。


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