「先生」って呼ばせないで
デートのお誘いかもしれない、付き合えるかもしれない、って浮かれてたけど、テニスだ。


有頂天だった気持ちがジェットコースターのように急激に下降する。


「…乃蒼ちゃん?大丈夫?」


「えっ!?ぜ、全然大丈夫です!服装どうしよっかなーって考えてただけです!」


遥斗先輩は遥斗先輩。


アイツとは関係ない。


テニス自体が悪いわけじゃない。


テニスに罪はない。


遥斗先輩のカッコよさを拝んでいたら試合なんてすぐ終わる。


だから大丈夫。


「ならよかった。服装は―…」


部活を辞めて以来初めてテニスに関わる。


体育では、テニスのときはわざと体操服を忘れて見学するか保健室に閉じこもってた。


“ねぇ、あの子じゃない?”
“あぁ、高松先生をハメた子?”
“噂通りの顔じゃん”
“何それ?淫乱顔ってこと?”
“淫乱顔とかウケる”
“自業自得っしょ”
“あの子のせいで高松先生クビになったもんねー。ほんと許せない”


あの頃毎日聞いていた声、言葉、笑いが蘇る。


保健室に逃げ込んでも、家に閉じこもっても、それらから逃げることはできなかった。


テニス…大丈夫かな…。


もうあの頃の記憶には蓋をしたつもりだけど、テニスに触れるのは怖い。


過去は過去。 


だから大丈夫…。


きっと大丈夫…。
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