ちびっこ聖女は悪魔姫~禁忌の子ですが、魔王パパと過保護従者に愛されすぎて困ってます!?~

「最初に攻撃してきたとき、わずかに軌道がズレていただろう。それで違和感を覚えた。次は剣。打ち込んでくる瞬間に、おまえは目を細めていた。加えて左側の反応が遅い。右はまあまあだったが、そのぶん剣筋が昔とはちがった」

「……相も変わらず恐ろしいお方ですね。あの打ち合いの最中でそこまで読み取れるほどの余裕があったとは」

「あんなもの、俺にとっては寝起きの肩慣らし程度でしかないぞ」

 エヴラールはもはや苦笑するしかない。

 グウェナエルが本物か否かを確認するための襲撃であったとはいえ、なにも手を抜いたわけではなかった。むしろ八割は本気で殺そうとしていたのだ。

「……稀にいるのですよ。あなたの姿を模して私に近づこうとする愚か者が」

「ふん。姿を模したところで己の力は変わらぬだろうに」

「ええ、ですからわかりやすいですよ。私が殺せなければ、陛下は本物。私が殺せれば、偽物です。はたしてもう何名返り討ちにしたことか」

 階級文化が築かれてしまっているせいで、その地位と名誉を奪おうとしてくる輩は五万といる。そうして無謀な挑戦の果てに命を散らす者も後を絶たない。

 とりわけ頂点に君臨する〝王〟は、常に狙われる立場にあった。

 魔王になりたての頃、城に仕えていた悪魔に夜襲をかけられたこともある。

 以降エヴラールは、極力そばに置く悪魔を減らし、危険を遠ざけていた。

「話を戻しますが。……この目は、ブレイズとの戦闘時にやられましてね」

 あのときのことを思い出すと、苦々しい気分がぶり返す。
< 106 / 193 >

この作品をシェア

pagetop